ハンペン。

初めてその名を聞いたのは小学生のときだった

レクリエーションの時間か何かに、一体何のためにそんなコトになったのか全く思い出せないけれど。好きなおでんの具を発表するタイミングがあった

 

皆の人気は『タマゴ』に集中した。

私は本当はコンニャクが好きだったけれど、空気を読んで『タマゴ』と言った

なんとなく『タマゴ』って言わないと、袋だたきにされるような鬼気迫る空気が流れていた。

 

当時、私はクラスの中で 孤立 独立国家を建国しており、正解のない問いに対して『皆と違う意見』を唱えると バッシングが始まりやすい 近隣諸国が問題提議を起こしやすい土壌があった。

その土壌は、それは見事に耕されきっていて、私が種を植えると即座に豊作になる。私はこの文章を書きながら、トトロが傘を持って植物をグングン伸ばしていくトコロを想像している。夢であってほしいけど、夢じゃなかった。メイの馬鹿、もう知らない!

 
 

とにかく無駄な争いを避けるためにタマゴ、タマゴと騒ぐ中。もはやだんだん、一番好きだったのは『コンニャク』では無く、本当に『タマゴ』だったのじゃないか?と錯覚が始まる。

自分で自分を世論に向けて洗脳していく、強国に囲まれる国際政治の怖ろしさを10歳を前に飲み干していた。本当に自分が思っていることを、ちゃんと心の中で管理することは実に難しい。

 

 

そんな折、私の好きな女の子がまっすぐに手を挙げて言った

 

『ハンペンが好きです』

 

実に堂々とした振る舞いだった。

彼女が『ハンペン』を愛していることの証明だった。

 

ハンペン。何語か全く分からない

見たことも聞いたこともない。近い言葉はカンペンとルンペンくらいしか思いつかない。

前者は固くて食べられないし、後者を口に入れるなんてとんでもない。

 

とにかく、私の心に強く『ハンペン』が刺さった

その時はどんな物体か知らなかったけれど。あんなに柔らかく、誰も傷つけそうにない優しさが白く具現化したようなものが、刃へと変わった。

 

『ペンは剣より強い』という言葉の意味を激しく勘違いした

『そうか、ペンってのはハンペンのことだったのか!?』

 
 

とにかく私は激しく嫉妬した。

あの子は、太平のことよりも『ハンペン』が好きなのだ

あのアウェイの中、堂々とまっすぐに手を挙げられるほどに好きなのだ。

好きな異性が、自分の知らない誰かを好いている

経験したことがあるものは、分かると思う。これは辛く切ない。

 

好きなあの子が『ハンペン』の到着を、おでんの香り漂う部屋でウキウキと待っている

好きなあの子が『ハンペン』の前でだけ『特別な笑顔』を見せている

好きなあの子が『ハンペン』と口づけをかわす

 

ハンペン、ハンペン、ハンペン・・・

 

 

顔も知らない『ハンペン』

そいつは一体、どれだけ良い男なんだ?

私は家に帰るやいなや、タエコさんに言った

 

『お母さん!ハンペン食べたい』

 

タエコさん『じゃあ夕食に出すわね』

 

私は喜んだ。ついに恋仇の顔を拝める

まずは敵を知らなければ戦えない

あの子が夢中のアイツをひとのみにしてくれる!

 

 

 

夕食に出てきたのは『冷や奴』だった

 

『お母さん。僕が食べたいのはハンペンだよ。豆腐じゃ無いよ』

 

タエコさん『ハンペンはね、だいたい豆腐なの。だけど豆腐の方が美味しいから、こっちの方が良いの』

 

 

このことがキッカケになり、高校時代にあったクイズ大会で大恥をかいた

私は17歳までハンペンは豆腐で構成されると信じていた

 

『ハンペンはなにで出来・・・』 

ピンポン『大豆!』

 

あのとき彼女がそうだったように。私もまっすぐな瞳で、喰い気味に堂々と答えた。

消し去りたい記憶ほど、忘れることができないのが、人生なのである。

 

 

そもそも『だいたい豆腐なの』という発言が常軌を逸している

色と形しか似ていない。タエコさんは、一体どういう見方で食べものと向かい合っているんだ?
大雑把にも程がある。

 

 

とにかく私の中には 

ハンペン(ニアリーイコール)豆腐

ハンペン < 豆腐

の図式がインストールされた。そのため、あやうく好きだったその子に

『ハンペンはやめなよ、豆腐の方が良いよ』と、よく分からないことを口走るトコロだった。

実際は口走った、そして変な顔をされた。そしてまた土壌が豊かになった。

 

ただ、あの時に私が言いたかったのは『ハンペンはやめなよ、太平の方が良いよ』だったのだよ。あれはあの時の、精一杯の告白だったのだね。

 

 

 

時は経ち。太平は37歳になった。

スーパーで買いものをしていて、ハンペンが目に止まる。

懐かしさに誘われて手に取ると

嫁ちゃん『へぇ、ハンペンってこんな風に売ってるんですね、私食べたこと無いです。隣のはカニカマ?へぇ、これも食べたこと無いです』

 

なるほど。言われてみると、私もほんの数回しか食べたことがない。

そんなわけで、タイトルが決まる。これは『はじめまして弁当』

 

 

ハンペンとカニカマと細かく切ったチーズを袋に入れてコショウ。良く練る。ねるねる。

形を整えて、ごま油で両面をしっかり焼く。

嫁ちゃんのハンペン・カニカマの初対面を仲人するのは、大好物のチーズ。

知らない人2人のトコロに飛び込ませるような乱暴をしてはいけません。

 

語源が見えない食べものランキングで、いつも上位にくるハンペン。同じく常にトップクラスなのがキンピラ。近い言葉はチンピラとコンピラ。前者は近づかない方が良いし、後者を口に入れるなんてとんでもない。

 

キンピラゴボウは慣れ親しんだ食べもの、ここはインドで学んだキンピラレンコン。
レンコンのキンピラを嫁ちゃんはまだ知らない。
 

レンコンの水煮を薄くスライス。ニンジンも細長くカット。火にかけたオイルに唐辛子をバチバチやって風味がついたら、レンコン・ニンジンを炒めまくり。

良い感じのところで醤油・味醂・砂糖を投入、炒めます。
 

いったい君たちの、どこが『キン』でどこが『ピラ』なんだい?

それとも『キンピ等』なのかい? どこから来て、どこに行くのかい?

そんなことを問いかけながら炒めます。
1人賑やかに炒めます 

 

あとは油揚にタマネギ・豚肉の肉タネを詰めてチン

卵焼きはお菓子みたいに甘く仕上げる

 

できあがり

 

 スクリーンショット 2020-07-18 23.51.20

 

 

 

嫁ちゃんが家に帰ってきて言った

 

『太平さん。わたし、ハンペン好きです!!!』

 

 

 

 

 

『あなたの心が正しいと思うことをしなさい。どっちにしたって批判されるのだから』

〜セオドア・ルーズベルト〜

 

 

 

 

1人でいるのは賑やかだ』

〜茨木のり子〜

 

 

 

 

『孤独なとき、人間はまことの自分自身を感じる』

〜トルストイ〜

 

 

 

 

『人生とは、人生以外のことを夢中で考えているときにあるんだよ』

〜ジョンレノン〜

 

 

 

 

『孤独な木は、仮に育つとすれば丈夫に育つ』

〜チャーチル〜

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