発展途上国の親切は、先進国を追い込む
インド料理屋で『巨大なナンのおかわり』をしつこく勧められるような状況がそれにあたる
まだ一枚目が半分も残っている。
持ち帰りしようかどうか迷っている状況で
なんなら今夜の夕食抜こうかな?って状況で
彼らは満面の笑みで言う
『ナン・おかわり・自由・どう?』
白いティースが、黒いスキンに、コントラスト、ソーグッー!
『遠慮・いらない』
していない
さてベトナムの貧しい村のバナナ売りのような青年が病院実習に来た
彼は医局会の自己紹介で『阿波踊り』を披露した
『踊る阿呆に、みる阿呆。同じアホなら踊らにゃソンソン!』
私はその勇ましい姿に衝撃を受けた
一発芸をする学生はごく稀にいるが、歌って踊ったヤツはいない
しかも、その根幹を担っているものは
『同じアホなら、踊らなければ損である』と言うのだ
つまり、それをみている我々医局員も『もれなくアホ』であり、さらに『損』をしていると断言したのである
これには驚き呆れ感動し
その行動を『阿波踊りテロ』と命名した
『踊る阿呆に、みる阿呆。同じアホなら踊らにゃソンソン!』
突然踊り出すだけで『見ているモノ達を強制的に損するアホ』に変えることできる
ナルトのような強烈な巻き込み能力に舌も巻いた
徳島げにげに恐るべし
さてベトナムの貧しい村のバナナ売り青年は、理由は不明であるが私のコトを気に入ったらしい。たぶん同じ発展途上の匂いがしたのだと思う
初対面2日目に突然言われる
『太平先生。僕と一緒に山に登りましょう』
ベトナムよ。それは初デートで2人BBQするくらいハードルが高いぞ
普通は絶対に断られるし、リスク管理としても絶対に断らないといけない
『分かった行こう』
『えええ???本気ですか?絶対に断られると思ってました、太平先生変わってますね』
たぶん君と同じくらいには
ちなみにベトナムの貧しい村のバナナ売り青年は、私が名づけたモノでは無い
彼の母が名付けた
バナナ一家はすごい仲良しらしい
そうだろうなと思う。表情豊かで、身近な人の些細な変化に敏感で、思いついた『彼の判断基準の良いこと』をすぐに行動できる
温かい家庭で育ったんだろうなぁ
かくして山登り当日
私・バナナ、新しく参加した学生A,Bとで4人パーティ
学生Bは登山経験なし、普段着で参加。運動は殆どしていないらしい
大山4合目あたりで、学生Bがバテてきた
バナナが心配そうに『僕、荷物持ってあげる、大丈夫?重いよね?僕、荷物もってあげる』と連呼する
学生Bは、自分が登山の邪魔になっているのでは無いかと気を遣い、『大丈夫、大丈夫だから、気にしないで』と断る
バナナ『僕、持ってあげる、僕、持ってあげる』
学生B『気にしないで、気にしないで』
バナナ『重そう、僕、持ってあげる』
無償の親切で徐々に学生Bを追い込むバナナ
悪気が無いが故に、その破壊力は抜群である
バナナが最上段にナンを構えるインド人に見えてくる
『遠慮いらない・おかわり・自由』
学生Bは根負けして、バナナに荷物を預ける
バナナは攻撃の手を緩めない
『後ろ歩く、良くない。前。僕の前に行って、一番前、君のペースで行こう。大丈夫』
学生Bは先頭になる。そのすぐ後ろにバナナ
『ゆっくり行こう、大丈夫。自分のペースで行こう』
学生Bに優しく声をかけながら、超ペースで登りまくるバナナ
そのペースで登らないと『皆に迷惑がかかる』と必死で登りまくる学生B
学生B『ああう。僕、もうダメです。僕は気にせず、先に行ってください。ゆっくりおいかけます』
バナナ『大丈夫、一緒に登ろう。ゆっくり登ろう、休んで登ろう。一緒が良い、一緒に登ろう』
そう言いながらハイペースで後ろから煽りまくるバナナ
車間距離が近い
迷惑をかけまいと、必死で登る学生Bは5合目で力尽きる
『僕、もう動けないんで、ここで待ってます。皆さん登ってきて下さい』
しょうがないので学生Bと別れ、登りまくる
バナナ『学生Bも一緒に登りたかったですね、おんぶしてあげたらよかった』
うーん、親切。ナン、満腹
バナナ『太平先生。かばん重そうですね?持ってあげます』
No Thank You お気持ちだけ
そして車間距離をあけなさい
山頂付近
絶景
山頂
バナナが、裕福そうなオジサンと仲良くなる
オジサンがすごい大きなパン『ジャージー牛乳パン』を食べ始める
バナナ『すごい大きなパンですね! すごいですね!』
オジサン『…君に半分あげよう』
バナナ『やったー、太平先生。オジサンがパンをくれましたよ、山分けしましょう』
お前、俺、今2個目のおにぎりを腹に収めたところやで?
ほら先生の分、と ちぎり渡してきたパンは、握りこぶし2個分くらい大きくて
満面の笑みの彼は、ナンを勧めるインド人とかぶりすぎ
大声を出して笑った声が少しだけ山彦になる、素敵な霧の朝でござんした
ナンにしても、彼は患者さんから凄く好かれるお医者さんになることでしょう
登山案内ありがとう
『山登りはどんな低い山でも、ある種の極限状態になり、人の本質を見せてくれる』
~市毛良枝~
『暗ければ、民はついて来ぬ』
~坂本龍馬~
『分け入っても分け入っても青い山』
~種田山頭火~
『この旅、果てしない旅の、つくつくぼうし』
~種田山頭火~
『明るい性格は財産よりも もっと尊い』
~カーネギー~
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