今日は私が2年目の研修医のときのお話

 

当時、私の所属する医局は主催学会を目前に控えていた。

その幹部であり、私の上司である『幸平先生(仮)』は、平均睡眠時間2時間と多忙を極めていた。

 
 

この幸平先生。とにかくバイタリティというか行動力が凄い。遊びも仕事も全力投球、『行く道いくんじゃ!』の人である。手術も人一倍熱意があるし、論文もバキバキ書く

医療にかける情熱がとにかく凄い

 
 

面倒見が良いが、面倒くさい人でもあり。楽しいが、メチャクチャな人でもある。

 

 

まず待ち合わせ時間に姿を現すことはない。多分イタリア人なのだと思う。
 

彼はテニスが好きで、わずかな空いた時間を見つけて遊んでくださるのだが。

基本的に、待ち合わせの30分後にやってくる多分胸毛が生えていて心臓まで繋がっている

 
 

その遅刻傾向が続いたため、ある土曜日。14:30の待ち合わせだったが15時に到着するように家を出た

 
 

見覚えのあるイタリア車が先を走っている。幸平先生の車だ。

 
 

やりぃドンピシャだぜ!見事な読みに、1人悦に入る私。

 
 

テニスコートにつき、挨拶をすると怒られた

 
 

『お前。14:30待ち合わせだって言っただろうが!何、30分も遅刻しているんだ!

 
 

自分も30分遅刻して、後ろからつけられていたにも関わらずコレが言える。

 
 

シビれる男である。アモーレ

 

 
 

さて、そんな幸平先生。主催学会前で疲労のピークを迎えていた。

 

深夜、風呂あがりに携帯を見ると、不在着信が残っている。たしか25時くらいだったように思う。

 

かけ直すが出ない。

 

40分後、私が『アニキ』と呼んで慕っている先輩医師から電話がくる

 

アニキ幸平君が入院した! あいつラテックスアレルギーがあるのに、ココナッツミルクを飲んだんだ! アナフィラキシーショックだ!』

 
 

アナフィラキシーショックとは、アレルギー反応の強烈なやつで。気道の浮腫などが強く起これば最悪死に至る恐ろしい病態

 
 

何故ラテックスアレルギーがある場合にココナッツミルクが危ないか?というと。

異なる食物が『交差抗原』と呼ばれる『非常に似たアレルギー誘発原因』を持っているコトがあり。例えばゴムアレルギーの人が、交差抗原のある『バナナ』を食べたときなどにアレルギー反応を起こすことがあるのだ。

※ ちなみにココナッツはラテックスの『交差抗原の疑いがある、という程度』で証明されてはいません。

 

 

深夜2445分。幸平先生は自宅でココナッツミルク(実際のアレルギー原因は不明)を飲み、他にも色々と怪しいモノを食べる
 

深夜2455分。急に前が見えなくなり、息苦しさを覚える。鏡を見ると瞼が腫れている
 

深夜25時 私に電話(家が近かった)。出ない
 

深夜2501分 アニキに電話

 
 

幸平先生『た フシュブシュ け ブフッ て キュ ブ バ い』直訳:助けて下さい

 

アニキすぐ行く!(…いかん、忙しすぎて幸平君が自殺を試みたに違いない!←勘違い)』

 

公道をここに書けない速さキッチリ法定速度を守ってぶっ飛ばすアニキ。

 
 

幸平先生のマンションの下につく。しかしアニキは『幸平先生』の部屋番号を知らない。というか、誰も彼の部屋を知らない。アニキは焦った。部屋が分からなければ助けようが無い

 
 

携帯を操作するが返事がない。どうすれば良いのだ? あまり悠長なことはやっていられない。

 

すると暗がりの中、アンパンマンのように顔が腫れた男がふらふらと車に近づいてくる。

 

 

後日アニキは語る。『うわぁ気持ち悪いなぁ。と思ったら幸平君だったんだよ』。別人かと思うほど顔が腫れることがあるのだ。

 

 

アニキは幸平先生を連れて病院にキッチリ法定速度を守って爆走。応急薬物投与を行う

 

アニキ『幸平君! ステロイド注射するからねっ!

 

幸平先生はピースサインをして言う

 

『に にぼん ぶってぶばばい 直訳:2本打って下さい

 
 

これは『ステロイドおねだり発言』と呼ばれ、医局で語り草になった。本当によっぽど苦しかったのだろう。

 
 

幸平先生は緊急入院となったが、幸いにもなんとか呼吸路確保のための気管切開手術はまぬがれた

 
 

深夜2630

 

騒ぎを聞きつけた私が病院に到着する。

顔がパンパンだったけど、生きている幸平先生の姿をみて心底ホッとした。
 

数日間入院が必要になるだろう。私は来る途中にコンビニで購入した、トランクス数枚大量のティッシュペーパーペットボトルの水。それらをベッドサイドに置いて帰った。

 
 

自分の働いている病院に入院した場合は、なかなか看護師さんにワガママを言い辛い。

 

そんなとき辛いことは何だろうか?

 

喉の渇きはかなり辛い → 

同じパンツをはき続けるのは辛い → トランクス

喉が腫れてツバが飲みづらい、鼻をかみたい → ティッシュ

 

一生懸命考えて、困りそうなことで痒いところに手が届くようにと選んだつもりだった。

 
 

だが、これは強烈に誤解を招いた

 

『アナフィラキシーショックで寝込んでいるのに。パンツとティッシュだと?お前は幸平先生を心底馬鹿にしている!』という不当な評価を受けるハメになる。

ちょっと面白い
。はなはだ心外である。

 
 

話を戻そう。

なんとか最悪の事態が避けられ幸平先生は入院となった。

翌朝、朝一番に病室に挨拶にいくと。幸平先生が忽然と姿を消している。

 

アニキ『パンパンに腫れた顔を日勤の看護師さんに見られるのが嫌だから、早朝に脱走したらしい…』

 
 

さすがは幸平先生『のど元過ぎれば熱さを忘れる』を地で行く男

そこにシビれる憧れる。アルマーニ

 

 

だがこの一連の話を聞き。教授がアニキに向かって大激怒!

 
 

教授『あほかぁ! アナフィラキシーショックは数日後のぶり返しが一番あぶないんやぁ! お前、どういう教育しとんやぁ! しかもあいつ電話に出えへんぞ!!!! とにかく! 早く幸平を連れてこいっ! もう死んでるかもしれへんわぁ!』

 
 

アニキは本当に気の毒である。夜中に叩き起こされて、助けに行って、完璧な処置をして、あげくの果てに怒鳴られる。


絵に描いた様な気の毒だなぁ、と思っていた矢先 

 

 

アニキ『てなわけで、Taiheiお前が幸平君探してきてくれ

 

Taihei『え、いや。僕、今日。外来係ですよ?』

 

アニキ『お前は、いてもいなくてもあんまり変わらないだろ? いいからさっさと幸平君を見つけてこい!』

 

 

さりげなく酷い悪口を言われたが、それどころでは無い。確かに早く幸平先生を見つけないと。『最悪の事態』が頭をよぎる。

 
 

しかし。前述もしているが、誰も幸平先生の部屋番号を知らない。秘書さんも、仲の良い人達も見事に誰も知らない。

 
 

幸平先生と仲が良さそうな、私が気に入っていた看護師さんに聞こうかと思ったが、知っていたら知っていたで凹みそうな気がしたためやめた英断をした自分を褒め称えたい。

 
 

部屋番号が分からないまま、幸原先生のマンションにつく。

 

まずは全ての部屋のベランダを調べる。白衣が干してあったらしめたモノだ → 無い

 
 

不審者丸出しの私。しかし彼の命がかかっている、仕方なく私は強硬手段に出た。

 

手紙のボックス。投函口からソーッと指を突っ込み、ダイレクトメールを取り出す → 『田口』 → 違う、手紙を戻し、隣のボックスからまた引き出す → 『平』 → 違う、やり直し

 

何度もコレをくり返し、ついに幸平先生の部屋を突き止める。もしも警察を呼ばれたら、私は何といいわけをしただろうか?

 

読者の方がコレを読んで『犯罪行為だ!』と言われたら、もうそれは仕方が無い。

確かにその通りだし、それは私の責任だ。

しかし、そのときは『そうするほか』手段を思いつかなかった。何か良い方法があれば教えて欲しい。

そして中々無いと思うが、似たような危険が起こったときは、最終手段としての参考にしていただきたくて書いているどうしょうも無いときは、どうしょうも無いのだ。

後のことは後から考えるしか無い。

 

 
 

結局、幸平先生は部屋で寝ているだけだった。眠そうな顔で出てきた幸原先生の顔を見て。緊張からの緩和なのか。笑い怒り安堵悲しみ喜びが同時に襲いかかり、なんかもう、経験したことのない感情になって少し泣いた

幸平先生はいつも『私の知らないこと』を教えてくれる。

 
 

かくして幸平先生は病院に強制送還。再入院となった。

 

『何か甘い物でも欲しいだろう』そう思った私はどら焼きを購入し病室に差し入れる。

 
 

幸平先生『…ねぇ、コレが入ってるよね?』

 

Taihei『ええ、高級品ですからね(えっへん)』

 

幸平先生『…ねぇ、交差抗原って知ってる? ラテックスの交差抗原にがあった気がしたんだけど…』

 

Taiheiまたまたー! 何いってんすか? ビビりすぎっすよ。そんなんあるわけないじゃ無いですかw そういうのを羮に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)って言うんすよwww』

 

 

さんざん啖呵を切り、念の為調べてみる

 

 14

ソース:食物アレルギー診療ガイドライン2012

 

 

危うくトドメをさすところであった


何事においても油断と見切り過ぎは危険である。幸平先生は『医療者として大事なこと』を教えてくれた『偉大な先輩』なのだ

 

 

注意喚起の為、この一連の出来事を研修医の後輩達に話した。

クリがラテックスアレルギーの交差抗原の疑いがあることを知っていた人は1人もいなかった

知らず知らずおそろしいことをやってしまう、そういうことは誰にだってあるのだと思う。

少し話はズレるが、きっと100年後には、現代の医療なんて『恐ろしいもの』ばかりなんだろう。今は知らないから平気で出来ることが、次々に明らかになっていくにつれて、出来なくなるものなのだから。

何にしても知識を入れていくことは大事だと思い知らされた事件だった。 

 
 

こんな風に笑い話にできて、本当に良かったと。胸をなで下ろしながら書いている。

実際は『冷や汗』でドロドロになるような体験だった。特にドアを何度ノックしても幸平先生が反応しなかったとき、窓をたたき割って突入しようとしたのだが。

その折りに第一発見者になる覚悟を決めた。それは筆舌に尽くしがたい思いだった。だからこそ涙が出たのだと思う。
 

 

アレルギー体質の方々。疲労が溜まっているときのお食事には、くれぐれもお気をつけ下さい。特にラテックスでかぶれる方は上記画像の食べものにご注意下さい。

※ アナフィラキシーショックを増幅させる促進因子:激しい運動、急性感染症、精神的ストレス、旅行などの非日常的活動、月経前状態
(ソース:アナフィラキシーガイドライン2014)


そしてヤバいな!と思ったら速やかに医療機関にご連絡ください
早ければ数分で症状が表れ、みるみるうちに悪化することがあります。

 
 

病院を脱走しないこと』も大事です!

 
 

あと『差し入れ』は色んな意味で注意を払いましょう

 


追加:結局、幸平先生のアナフィラキシーの原因はハッキリ分かりませんでした。後日検査で『ココナッツ』ではなく、一緒に食べていた『豆乳系のモノ』が怪しいのでは無いか?という結果が出ましたが。幸平先生は普段、普通に豆腐を食べて特に症状が出ることはありません。見ている方はドキドキしますが。

何にしても『こういうリスクがある』ことをお伝えしたかった記事です。
 

 

 53

 

『人は誤解を恐れる。だが本当に生きようとする者は、当然誤解される。誤解される分量に応じて、その人は強く豊かなのだ。誤解の満艦飾となって、誇らかに華やぐべきだ』

〜岡本太郎〜

 

 

 

 

 

『誤解、おおいに結構じゃないか。日本人は外国人に「ワンダフル」と言われそうなものばかりつくりたがる。僕はそれを、ぶち壊そうとしているんだ』

〜岡本太郎〜

 

 

 

 

 

『ときには、馬鹿にされることもある。ときには、非常識なやつだと思われる。ときには、変なやつだと思われる。ときには、誤解される。ときには、嫌われる。それがどうした』

〜伊藤守〜

 

 

 
 

 

『自分は誤解されやすいと思ったら、言葉が足りているかどうか反省してみる。思いが正確に伝わるように言葉を尽くしてますか』

〜美輪明宏〜


 

 

 

 

 

『理解というものは、常に誤解の総体に過ぎない』

〜村上春樹〜

 

 

 

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読んで下さってありがとうございました^^

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コメント

 コメント一覧 (4)

    • 1. dadacyamame
    • 2017年08月26日 07:57
    • 太平さんには、女神さまがついているのですね。
      大事故で無傷だったのも、インドに呼んだのも
      女神様でしょう。
      外国に行き、その国の人たちの為に頑張っている
      日本人がいることを誇りに思います。
    • 2. 麦
    • 2017年08月28日 12:41
    • ラテックスって手袋以外にどこで使われてるの?
    • 3. 太平
    • 2017年08月28日 19:24
    • >dadacyamameさん

      女神様。そういうのがいるのかも知れませんね

      今まで、何度も『死ぬ』って言われるような事故を経験しましたが
      ほぼ全て無傷でした

      私のやっていることはそんなに高尚なことではありませんが
      一緒に楽しいことが広がっていけたら素敵ですね^^
    • 4. 太平
    • 2017年08月28日 19:25
    • >麦ちゃん

      うーん。一番身近なところは、やはりコンドームでしょうなぁ☆
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