こんにちは。
今日の『世迷い言葉』は私のお仕事『インド・バイオデザイン』について書きます。
私は実は、このプログラムに参加する初めての日本人でした。
まずバイオデザインとは『何か?』
・ 2001年にスタンフォード大学で始まった医療機器開発プログラム
・ 目的は2つ。医療機器開発を牽引する『人材育成』。実際に機器を開発し市場にのせ自立した『企業設立』
このプログラムのユニークなところは
・ 開発者が他業種混合チーム。医者だけじゃなくて、メディカルエンジニア、生物系科学者、工学技士、法律家、ビジネスマンなどの様々な職種を混ぜてチームを編成する。
何故、そんなシステムになっているかと言うと。
医者だけで医療機器開発を行うと『失敗するリスク』が高いからです。
例えば、ある医者が『こういう手術器具が必要だ!』と思いつき、機器開発メーカーに『絶対に売れるから作ってくれ!』とお願いする。
こういうのは下っ端の医師だと、なかなか機器メーカーは動いてくれないので問題は起こりにくいのですが(そもそもスタートしない)。
偉い教授先生などが『猛烈にプッシュ』すると『機器開発者達』も『そうなんだ!必要なんだ!』と勘違いして作ってしまうようなことが、しばしば起こります。
で、沢山お金をかけて『機器』が完成。
しかし『売れない!』
なぜなら『それを必要とする医者が殆どいない』からです。
例えば『ゴッドハンド』と呼ばれるような凄腕医師が『何かを必要』というとき。それは既存の道具では『どうしても満足できない!』という場合が殆どです。
つまり、その機械は『ゴッドハンド』には必要かも知れませんが、普通の医者達には『そんなに必要じゃ無い』さらに言えば『その必要性が分からない』なんてことが起こります。
だけど、偉い人に尋ねられたら『それは素晴らしい道具ですね!完成したら私も一つ買おうかな!』なんて社交辞令で言っちゃいます。それで勘違いをさらに深める。実際でたら誰も買わない(笑)
欲しい人がいないんですね!
開発費用もかかっていますので、値段は高い。
さらに買う人が少ないから、採算を取るためにどんどん高く設定するハメになる。
売れない悪循環にハマります
偉い医者は『その分野のプロ』ですが『物作り・流通』プロでは無いから起こる出来事です。
どんな分野でもプロは『自分の当たり前』を『世界の当たり前』と勘違いするリスクがあるので、いかなる分野でもこういう失敗が起こりうる。
これを打開するために、色々な職種でチームを構成したのがバイオデザインプログラムです。
我々の開発は
・ 実際の医療現場から『ニーズ(何が本当に必要か?)』を探すところから始まります
様々な医療現場に行き、どういうことで困っているかを『観察』『質問』し情報を可能な限り沢山集めます。(我々のチームは700個ありました)
続いて、どういう『必要性』が存在しているかを羅列(この時点で300)
ここからフィルター(ふるい)をかけて、良い物を残していくという作業をします。
バイオデザインの本質は『とにかく沢山集めた土から、一粒の砂金を取る』と私の上司は表現しますが。
実際、このフィルターがけ作業は非常に泥臭い仕事です。『医療機器開発』という名前が持つ『なんか爽やかで凄そうな感じ』は一切ありません。
・ それぞれのニーズについて、論文をめまいがするまで読む → 既に解決済みの安い優良なデバイスがあったらアウト
・ インドの医者達に質問しに行く → アポイントメントを取るのに1ヶ月かかったり、田舎の医者だと全然現代の医療をしらないようなことがある
・ それぞれの疾患について患者数や死亡率を調べる → インドの統計はメチャクチャ。正確なデータを得るのは『ウォーリーを探せ状態』。何が恐ろしいかって『そもそもウォーリーがいなかったりする』 いないかもしれないウォーリーを探すのは、かなり精神が削られます
それでもニーズが多い内は、まだ良いのですが。
これが30個くらいに絞られてきたら、もう大変!
プログラムとして『ニーズに執着しない!』ということを口を酸っぱく言われながら進めるのですが。
実際生身の人間ですので、どうしても執着が出てきます。
つまりチームメイトそれぞれに『押しデバイス』通称『オシデバ』があるんですね。
何ヶ月もかけて仕事を進め、残っている『オシデバ』は。いうならば自分の子供みたいなもので(僕は子供いないけど)
『どうしても日の目を見せてあげたい』というのが親心。
これが削られるのは『もう大変!』
親は怒り狂います。
毎日毎日、大喧嘩しながら『減らしていきます』
私にとっても、人生で一番喧嘩をした期間でした。
最後に
『インドならでは』というか『我々のチームの最終デバイス決定』に至ったトンデモで『私にとっては味わい深い』経験を書きます。
ニーズ決定で、300あった案が2つまで絞られたときのコト
A案は私の『オシデバ』、B案は他の3人の『オシデバ』
そこに至るまでは『大喧嘩』しながらも『論理的な戦い』の末、互いに納得しながら少しずつ案を削っていたのですが
このタイミングで、急に3人とも論理的じゃ無くなります。
私のインドのボスも、私達の仕事に関わるインド人医師達や他のチームも『どうみてもA案が優れている』と認識していて。
論理的理由付けも十分
それを『どんなに説明しても納得してくれない』状況になったんです。
つまり『論理的なもの』よりも『感情的な何か』がそこに介在している
こうなると『論理的な戦い』はあまり良くありません。感情を『正論』で傷つけられることは、誰だって辛いですから。
なので、チームメイトを1人ずつ呼び出して話を聞いてみました。
そこで分かったのは以下のことでした。
・ その時点で、彼らは3人とも『自分の1番のオシデバ』は消されていた
・ B案は、それぞれの『2番目のオシデバ』
・ A案は『Taiheiの1番のオシデバ』
・ 自分たちは『もともとの職を捨て』このプログラムにかけている
・ Taiheiは失敗しても、日本で医者をやれば良いんでしょ?
・ 何をやっても失敗するかもしれない。それはA案もB案も一緒
・ でも失敗するにしても『自分たちが好きなモノ』で失敗しないと、自分たちは納得できない
これは『感情』です。
おそらく『この内容をインドのボス』にチクったら、確実にA案になったでしょう。論理的じゃないからです。下手すりゃ怒鳴られたかもしれません。
けっこう悩みました。
悩んだ時は『原点に戻る』が私の信条なので、戻ります。
なんでインドに来たんだっけ?
『インドと日本に、何か良いコトを繋げたい』
『私の大事な人達に、喜ばれるコトをしたい』
それが核でした。
じゃあ私の一番大事なインド人達は誰だろう?
それは、1年間一緒に『笑って』『遊んで』『仕事して』『喧嘩して』『仲直り』した
チームメイト達でした。
一番身近な人達をないがしろにしてまで達成する『大事な仕事なんて無い』
賛否あると思いますが、私はそう思っています。
例えば医者だったら。医者としては『どんなに立派』でも『家では奥さん子供が毎日泣いている』という生き方が嫌いなんです。
これは仕方ないんですね。私はそういう人なんです。
やっぱ、あんまり『医者』にも『ビジネス』にも向いてないのかもしれませんね^^;
『ヒモ』って呼ばれてますが、これは私を的確に示したワードなのだと思います。
なので「もういいや。A案は捨てよう」
B 案を彼らと一生懸命やって、失敗しても『彼らと一緒に泣いて笑おう』
そう決めました。
迎えた最終決定の日
インドのボス『で? どっちの案にするんだ?』
私達『B案です』
迷いはありませんでした。もう、決めたことでしたので。
『一つだけを選ぶ』それに向かって何ヶ月もかけてやってきたのですから
インドのボス『本気?』
私達『はい』
インドのボス『ファイナルアンサー?』
私達『YES』
インドのボス『・・・・・・・』
インドのボス『今年は2つ!』
私達『どえええええええええええええええ!』
間違いなく私達がインドで『一番の大声をあげた瞬間』でした。
この時の衝撃は忘れない。
そんなワケで、我々は今でもインドで機械を作っています。
先日幸運にも、インド政府から『ある程度まとまった資金』を獲得することにも成功しました。私はホント何もしてなくて、チームメイト達が優秀なんです。
とにかく。インドに来て。
『考え方』や『感じ方』が全然違う人達と、思いっきりぶつかり合った経験が宝物です。34歳にして青春をさせてくれた『インド』と『日本』、素敵な仲間達。
ありがとう
『自分自身を信じてみるだけでいい。きっと生きる道が見えてくる』
〜ゲーテ〜
『運がいい人も、運が悪い人もいない。運がいいと思う人と、運が悪いと思う人がいるだけだ』
〜中谷彰宏〜
『人生に失敗が無いと、人生を失敗する』
〜斉藤茂太〜
『尊厳を保つためには、金は必ずしも必要ではない』
〜ガンジー〜
『あちこち旅して回っても、自分から逃げることはできない』
〜ヘミングウェィ〜

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コメント
コメント一覧 (6)
味がある。笑いがある。
読後感がイイ。
起承転結、だらだらしてない。
楽しみです。
具体的に褒めてくださってありがとうございます^^
嬉しいです☆
喜んでいただけて良かった^^ カラオケまた行きましょう☆
私も、インドに行ってみて思ったことです。
私たちの失った何かがある国ですね。
だだちゃ豆とは山形の枝豆のことです。
ビールにとてもあいます。
素敵でしょう^^ 一見いいかげんそうに見えるのですが、部下を良く見てくれている、かっこいい大人なんです。
『私達の失った何か』
そうかも知れませんねぇ。取り戻しに行きますか^^
私、枝豆好きなんですよー^^ 『ずんだ』も
だだちゃ豆は「白山だだちゃ豆」がブランド品なのです。
出回るのは、8月15日以降で限られた地域のものです。
インド流にいうと『マハラジャ枝豆』ですね。
ずんだ知ってますよ^^
昔、モスバーガーに『ずんだあずき』というスイーツがあって、それが好きでした。
なるほど『白山だだちゃ豆』はスーパー高級マハラジャ枝豆なんですね^^