『プロ旅行演出家の朝は早い⑤』
インドの首都ニューデリー
喧噪取り巻く商店街、コンノートプレイスの一画。
ここに大きな交差点がある。
プロ旅行演出家、匠の仕事場である。
世界でも有数の旅行演出家。
彼らの仕事は普段決して表舞台で語られることは無い。
我々は、プロ旅行演出家の一日を追った。
匠「そうなんだ、医療機器を作りにインドに来ているんだね。いやぁ凄い人と会話ができて嬉しいよ。娘にも会わせたいよ」
日本人「娘さんがいらっしゃるんですね」
匠「うん、もう3歳になる。ナンチャパティ=ロティチャイって名前なんだ」
当然、匠に娘はいない。娘どころか嫁すらいない。彼女もいないし、元カノは前世まで遡らないといけない。
だけどまだ見ぬトモダチがいっぱいいるから構わないのだ、と匠は言う。
後日、このときの会話の意図を匠に質問した。
Q.えっとお子さんはいらっしゃらないですよね?
匠「ええ、はい。私に娘はいません。これもね演出なんです。娘がいる、ってことは家庭がある。守る物がある人の方が安心感があるでしょう?あぁきちんとしてるんだろうなって。私はお客様に安心して貰いたいのです」
Q.それは嘘にはならないのですか?
匠「え?当然、嘘ですよ」
Q.いやしかし、匠は『旅行者を騙すことは許せない』と・・
匠「あぁ、嘘をつくことと騙すことは全然違います。
喜んでいただくため、思い出を作るためになら嘘はいくらでもつきます。
嘘と騙すことは一線を画しているんです。
プロレスを見るときに演技だって怒りますか?映画を見ていてこんなの虚構だって怒りますか?
生の演出の一部なんです、伝えたいことを伝えるための手段なんです。この場合は、安心を届けたいのです。
私だって嫌ですもの、安心できない人とずっと一緒にいることは」
一番大事なことは喜んで貰うこと、お金はそれについてくるものなんです。匠はそう強調する。
匠達がカフェから出てきた。「タダで見れるところだけど、ちょっと作法あるんだ」という音声をマイクは拾った。2人で向かう先はどうやら寺院のよう。
匠の誘導は実になめらかに進む
匠は言う「相手に選んでいただくことが肝要である」と。
匠「選択肢があると人は安心するんです。あぁどっちを選んでも良いんだなって。そこでポイントはがっつかないことです
あくまでもサラッと“これは見た?”って聞く。あれ?行きたいの、ならハンバーガーご馳走になったし、お礼に案内するよ?
という、この軽さが大事。簡単そうに見えるけどアマチュアはここがぬるいんですね。それじゃチャパティは食べれても、ナンは食べれるようになれません(笑)」
2人は寺院に入ってゆく。どうやらまずは靴と靴下を脱ぐよう。撮影禁止らしく携帯電話も金庫にしまうようだ。
匠は日本人から預かった携帯電話を大事そうに金庫にしまうと、日本人に背を向け小型カメラとマイクも外してしまった。
我々としては撮影できないのは残念であったが、こういった行動も匠らしさなのだろう。
〜誰かが大事にしているものは、できるだけ大事にしてあげるのが良いんです〜
匠の著書『みんなトモダチ』の一節が思い出される。
日本人「ほんとうにタダなんだね」
匠「そうだよ、本物はみんなタダなんだ。太陽が光熱費を取りに来たりするかい?」
日本人「あはは、面白いことを言うね」
匠「・・・」
日本人「どうしたの?」
匠「・・いや、うーん。やっぱりちょっと綺麗すぎると思うんだ」
日本人「え?どういうこと?」
匠「いや、君の格好が綺麗すぎるから、旅行者丸出しで危ないと思うんだよ」
日本人「そうなのかな?」
匠「うん、インドの服を買って溶け込んだ方が良いよ。そのままだと悪いインド人が集まってきちゃう」
日本人「うーん」
匠「これはタダじゃ無いんだけど・・、近くに安くて良い服を売っている店があるんだけど見てみる?」
日本人「うんうん、行く行く!」
完全に匠のペース。
『まともに土産物屋に連れて行けるまでに5年はかかる』
というのはけして大袈裟な表現では無い、卓越したそれらの技が一朝一夕で身につくものでないことは、素人である我々の目からしても明らかだった。
《続く》
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プロ旅行演出家の朝は早い《完結》
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コメント
コメント一覧 (2)
岩田健太郎先生ですか。ふむー私はその本は読んだことがないので、日本に帰ったら開いてみます。
いつも読んでいただいてありがとうございます^^